あけましておめでとうございます。
私生活で少しショックなことがあったので、それについて話そうと思います。

先日、知り合って結構経つけどそこまで仲の良くない、微妙な距離感の年上女性と1泊2日で旅行に行ってきました。

その子、ものすごい美人なんで、テンション上がりっぱなしで長野まで行ったんですが、まあ色々ありました。
途中の話はつまんないので略しますが、昼間は観光して旅館特有の早すぎる夕飯食べて、温泉入って、一息ついて一緒に喋ってるとき「橋本くん、催眠術できるんでしょ?やってよ。」と言われました。
ここで僕は何か強烈な違和感を感じたのですが、特に気にせず催眠術をやりました。
壁についた両手が離れなくなったり、おなかの中心が熱源になって、そこに手を近づけると熱くなったり、あと気孔もちょっとやりました。
一通りやって疲れたので、このへんにしときましょうか、と言ってタバコを手に取ると、肩を掴まれて「エロ催眠は?」と言われました。

うまく言葉に出来ないのですが、ここで僕はものすごく嫌な予感がして、「ああこれ多分セックスできないだろうな」と感じ取りました。まあこの予感は当たるわけですが。
一応勝負を投げるわけにもいかないので、「どこが一番感じる?」と聞いて布団に寝かせ、乳首が一番感じるそうなので乳首を敏感にする催眠をかけ、心臓が一回鼓動するたびに一度触られたのと同じくらい感じる暗示をかけて、様子を見ます。
確かに気持ちよさそうにしているけど、何かが足りない。
なんだろう・・・と考えていると、女は起き上がっている。
このままだと本当にイッちゃうからだめだよ・・・」と言われた。
そう、これが催眠の限界だ。理性がその状況を拒否すれば催眠は破られる。
そしてイク前に起き上がったということは、“こいつにはイカされたくない”もしくは“こいつとセックスしたくない”と思っている、ということに他ならない。
萎えて部屋の椅子に座って、窓から雪を眺めていると「ふてくさないの。」と言われキスされましたが、このときのキスが砂を噛んでいるようで、とても気持ち悪かった。ハズレの風俗でするキスよりも気持ち悪かった。

結局、同じ布団に入ってイチャイチャしたものの、結局セックスはしなかった。
薄暗闇の中で彼女の輪郭が見える。
「いま、何を考えているんですか」と聞く。
「橋本くんのこと。」と帰ってくる。この意味は後でわかった。

そしてそのまま眠りについて、特に面白いこともなく帰ってきた。
帰りの電車で一人になったとき、女の顔を思い出そうとする。
女のことが、まったく思い出せない。顔も、身長も、髪の長さも。

ふと、昨夜のことが思い浮かぶ。
「いま、何を考えているんですか。」
「橋本くんのこと。」

そうか。ハッとして、グリーン車で叫びそうになった。

自分は“可愛い年上の女性と旅行に行った”という記号的な事実が欲しかっただけで、相手のことはなんとも思っていなかった。
だから顔も思い出せなかった。
口説き文句も催眠術も、相手のことを見ないで振り回しているだけだった。
そして、相手はそれに気付いていて、「橋本くんのことを考えている。」と言ったのだ。


人生をもてあましている理由が、やっと分かった。
こんな簡単なことに、22年ずっと気付かなかったなんて。
自分は目の前の相手を見つめられていなかった。
抱きしめていたのは女ではなく、自分であった。
キスが気持ち悪かったのは、鏡にくちづけていたからだった。
そして、もうこんな風に生きるのをやめようと思った。

窓の外を見ると、見慣れた景色が走っていた。
雪は降っていなかった。
この先どうすればいいのかはわからないが、何か憑き物が落ちたような気がした。