少し前の話ですが、個人的に思い出深い出来事なので書きます。

夏の終わりごろに、高校の同級生(女)から連絡があった。
話が長いので要約すると、こんな感じだ。
「うちの大学のサークルに、男にベタベタして媚びを売っている後輩(女)がいる。そいつがムカつくからやっちゃって」
という話だった。

別にその女が僕とセックスしたからと言って行動を改めるかと言われたら、絶対そんなことないしむしろ逆効果だと思うのだが、自分もセックスがしたかったのでOKした。
当時は“まともに人と話をすることができなかった自分が、女性を口説けるまでになったということに酔っていたと思う。意味もなく催眠術やトランスを使ったり、興味のない人を口説いたりしていた。
力に振り回される、とはこのことだと思う。

同級生の軽音楽サークルに橋本を呼ぶので、あとは自分でなんとかしてくれ、とのこと。
めちゃくちゃ投げやりだが、なんとかなるだろう。

当日。新宿に集まった面子は、僕以外全員軽音楽サークルで、男が自分含めて5人、女が同級生含めて5人だった。
まず挨拶をして、面子を確認する。
今回のターゲットは集まった女性の中で、一番顔のレベルが高かった。
とりあえず「はじめまして橋本です。今日はよろしくお願いします」とだけ言って、男の群れへ行く。

まず、こういった場では男をコントロールしないと、目標を達成するのは難しいと思う。
前評判がない場合は下手に出るが、同級生からある程度、自分が性的にただれている人間ということを伝えられているようなので、自分の性体験の中で、ハプニングバーで女4人と5Pしたとか、普通の大学生がしたことがないような体験を選んで話し、マウントを取っていく。
だんだんと男連中との距離感が離れていき、自分に敬語を使う者まで出てきている。

ただ、男連中の中の一人が明らかにこちらに敵意を向けていた。
こちらの話を遮って大声を出したり、「俺もピンサロ行ったことありますよ」と、全く的外れの対抗をしてきたり。
こんな奴は敵ではないと思っていた。いつでも殺せる。

今はニコニコしてるけど、本気でやりあったら言葉だけで刺し殺せるぞと思っていた。
ただ、今回の目的は彼を殺す(比喩)ことではなく、チヤホヤされて付け上がっている女とセックスすることだ。
彼が突っかかってくるのをいなしながら歩いた。

うまくいっていると思った。そして居酒屋に着いた。
合コンのように、男と女が向かい合って座る。
適当に女性全員の自己紹介を聞いてから、自分の自己紹介をする。

ターゲットはいつもチヤホヤされている。そこで自分も同じ事をしてはいけない。
それをしたら、自分が来た意味が無い。普段と別の価値を見せなければいけない。
まず一番ブスな奴を褒める。

ブスを褒めると、普段のパターンが崩れる。褒められないことに腹が立つ。
褒められようとして、自分に食いついてくる。そうなればもう、自分に惚れている子に話すのと大きく変わらない。


あえてブスの顔は褒めない。顔を褒めると、変にすねたりするからだ。
今回は同級生以外は全員初対面である。やはり今回も催眠術に頼ることになる。
相手はみんな、催眠術を知らない。催眠術といえば、魔法や幽霊か何かと同列のものだと思っているだろう。

一番ブスな子に、「君は目が綺麗だ、すごくいい目をしているよ。たぶん催眠術覚えたらすごく上手くなると思うよ。ちょっとやってみようか。」と言って隣に座り、簡単な催眠術をかける。
ここが勝負どころだ。ここで一発で決めることが出来れば、自分の印象も上がり、催眠術の成功率も格段に上がる。
逆に一度失敗してしまうと、単なるオカルトか何かだと思われて、自分への食いつきが失われてしまう。
失敗するわけにはいかない。集中した。
うるさい場所でも割となんとかなる、「開いた手が自分の意思とは反対に閉じていってしまう」という催眠術をかけて、一発で成功した。

一番ブスな子が黄色い声で「キャー!スゴーイ!ウソウソウソ!?」と叫んでいる。
自分で能力を宣伝しても単なるナルシストかバカにしか見られないが、こうやって他人に触れ回ってもらえば、ほとんどの人は信用する。
完全に流れはつかんだ。あとはターゲットをどうにかするだけだ。

隣で、最初に突っかかってきた金髪の男がこちらを睨んでいる。
初対面の、たいして格好良くもない男に女が全員興味を向けている。彼からしたら面白くないだろう。
声には出さないが「ひっこんでろザコが」と心の中で思っていた。

昔、ステレオタイプなオタクだった頃は、金髪というだけで無条件に怖かった。
それが今は、金髪のバンドマンが自分に屈服している。
昔の自分を乗り越えられた、と当時は本気で思っていた。

そうやって何かを切り捨てることが、自分を蝕むことだとは全く思っていなかった。

この話は長くなるのであと2回くらい続きます・・・