僕は身内ネタが好きだ。
身内ネタってわかりますよね・・・?
風俗調査団で言えば、良知さんのハイパーエボリューションネタとか、剛田さんがいじられてたりとか、まあそういうのです。

身内でしかわからないネタを繰り返して、身内だけでゲラゲラ笑うのが好きだ。
もちろん知らない人には言わないし、押し付けない。当然のことである。

僕が普段属しているコミュニティはオタク界隈である。
先日、ネットで身内ネタを使ってはしゃいでいたところに、あまり仲良くもなく、面識も一度か二度あるかないかくらいの人が急に混じって、僕らの身内をいじってきた。

無性に腹が立った。

オタクコミュニティというのは、まあいろいろと変なプライドがあるもので、ネットで女に絡みにいくのはダサいとか、非処女の女はクズとか、いわゆるリア充は頭がカラッポで人間のレベルは低いとか、まあそういう変な押し付けというか、記号化された偏見みたいなものがたくさんある。
そういった記号の押し付けは好きではないが、自分にそれが押し付けられない限りは基本、黙っている。

ただそのときは、どうしても許せないくらい腹が立った。
彼が身内ネタという「同じ記号」を纏っていれば、仲間として見てもらえると思って僕らとコミュニケーション(こんなものコミュニケーションとも呼びたくないけど)を取ってきたことに対して。
そういったコミュニケーションを取る人と同類だと思われたことに怒ったのかもしれない。

どうしても許せなかった。汚い言葉を浴びせた。
要約するとこういうことを言った。

お前は、お前らオタクが嫌悪しているネットでオタク趣味の女に手当たり次第に絡みに行ったり、婚活でいきなり年収聞いたりしてる奴と同じ事をしてるんだよ。
まずそういう行為をする人間は、俺の言っていることがまず理解できないだろうな。
死ぬまで2ちゃんねるのネタをコピペしてお互いのことキチガイとか言い合ってつまんねー承認欲求の埋め合いしてろ。こっちに擦り寄ってくんな。


まあ当然彼は不機嫌になったのだけど、不機嫌になったことも、自分はどうしても許せなかった。
なぜ自分だけが悪者にならなければいけないのか。

本当に自分たちと仲良くしたいと思っているなら、自分の与えた痛みも消化した上で擦り寄って来て欲しかった。
単に記号だけをなぞって他人とコミュニケーションを取ろうとする行為は、本当のところ、自分らと仲良くしたいというわけではなく「誰とでも仲良くできる自分」が欲しいだけに過ぎないと思う。
それは、失礼な行為ではないのだろうか?
失礼どころか、悪意を持って傷つけられたように感じた。それがなぜ、自分だけが悪者になるのか。


彼女が欲しいと呪詛のようにつぶやく人たちを見て、何か違和感を感じないだろうか?
彼らは、彼女が欲しいのではなく、「彼女のいる自分が欲しい」だけなのである。
彼のしたことは、そういう閉塞しきって思考も止まった人間と同じだ。許せなかった。



記号をなぞって他人を求めることで、自分もまた記号化されてしまう。記号化の檻に閉じ込められる。
そうして記号だけを使って他人と関わった結果、本当に見て欲しい自分は記号の向こう側にあるのに、自分もまた記号でしか見られなくなる。不毛だ。
自分はそれに怒ったのだと思う。不毛な行為を押し付けられたことにも。



コミュニケーションというのは、真冬の夜に部屋の内側から窓ガラスを覗き込むようなものではないか。
ただ窓を見つめていても、窓は結露していて見ることができない。
結露している相手、何もまだ見えていない相手の結露を、少しずつ丁寧に拭いていく。
きれいに結露を取って、窓を覗き込む。そこにうっすらと自分が見えてくる。
時間が経てば、また窓は結露していく。それをまた丁寧に拭いていく。
結局のところ、自分を見るという行為は、それの繰り返しでしかないように思う。

記号化して相手を見るという行為は、結露した窓ガラスに、指で「理想の自分」という行為を書いていく行為だ。
一時は何かが見えるように思えるかもしれない。
しかし指でなぞった結露は水滴となり、指を離した瞬間に理想の自分を引っ掻いて落ちていく。
書き終わった頃には、理想の自分は水滴でボロボロでいびつな鏡面が、こちらを見つめているだけだ。


左手で左ひじ(右でもいいですが)を触れることはできないように、自分のことは、自分で知覚することはできない。
ただ他人と触れていく中で、他人の産んだ距離や反応から、自分の立っている位置というものを相対的に推測していくだけのことだ。
関係というものは、無限に軸がある。方眼紙のマス目のように、いくつかの数値があれば位置が割り出せるものでは、もちろんない。

それでもただ、自分を知るために、相手を知ろうとして、窓ガラスを拭こうとするのだ。

彼が今なにを考えているかは知らない。
ただ、自分はそれだけの事だと思っている。