「結局、連中の歪みは、俺の歪み・・・」

山本英夫 『ホムンクルス』

アキバ神社がオタクコミュニティを中心に、ネットで話題になっていた。


別に秋葉原の風俗なんて、珍しいものでもないと思うが、おそらく彼等はアキバ神社で初めて、秋葉原に風俗があることを知ったのだろう。
異様な盛り上がりだった。オタクコミュニティ特有の、自虐に隠したコミュニケーションへの期待が140字に乗って、たくさん流れてきていた。


これだけ騒いでいても、恐らく彼らはアキバ神社には行かないだろう。


もしくは“勇者”気取りの人間が実況をして、自分の能力の無さを店の、女性のせいにして、周囲の人間が「やっぱり風俗なんてクソだな!」と騒いで終わりだと思っていた。


この予感は概ね的中した。


そんなことはどうでもいい。この不快なムードを吹き飛ばすくらい強く、ある確信が自分の中にあった。

オプションや在籍嬢の紹介から、“秋葉原の香り”がするのだ。


リフレやお散歩、耳かき全盛期にあった、あの独特の香りが。


ドス黒い欲望にリズリサのピンク色をぶちまけた毒々しいマーブル
色が、仮面をつけて街を歩いていた、あの頃の香りが。
甘ったるい声。垂れているビラ。カラーペンの名前。ビニール鞄。
雑居ビルの明かり。カラコンの笑顔。怪訝な顔のタクシー運転手。


ここには、まだそれが残っている。
どうしてそう思ったのか、うまく言えないが、自分は100%に近い、妄信といってもいいレベルで、それを直感していた。


アキバ神社は「巫女専門オナクラ手コキ店」らしい。


巫女は処女じゃないとダメなんじゃないかとか、オナクラなのか手コキ店なのかどっちなんだとか、くだらない事も考えたが、すぐに頭から消えた。


在籍の女の子を見る。


…これだ。みなみちゃんだ。

サムネイルからでもはっきりと伝わってくる、蠱惑の香り。

モザイク越しでもわかると思うが、おそらく笑っていない。

しかし身体はしなやかにポーズをとって、レンズの向こう側へ確かに何かを語りかけていた。

自分の価値と強みを認識できている人間の、迷いのないポージングだった。


当欠を3回されて、ようやくプレイをすることができた。

あの頃、ブッチは日常茶飯事だった。

苛立つというより、懐かしさを感じていた。

まるで自分の期待している心を見透かされて、弄ばれているかのようだった。

いつもそうだった。自分が何か答えを探して相手の瞳を覗き込んでいるとき、相手は全く別のものを見ている。

それは自分のことを見ているのですらない。それが心地よかった。答えがないとわかっていて、瞳を覗き込む行為は鏡を見ているようだった。


自分より3つか4つ年下の、二十歳の女の子に、会う前から弄ばれていた。気分はよかった。


受付の対応は可も無く不可もなくといった感じ。

90分コースを頼んだのだが、提携のホテルも90分で押さえられていたので、延長料金が発生することが確定してしまう。そこだけがマイナスポイントだった。受付で120分にしてくれと訂正して、ホテルで彼女を待った。


ホテルにはエレベーターがなかった。このご時勢にすごい。

5階まで息を切らして登り、ホテルでみなみちゃんを待つ。

階段を上がる音が、薄い壁を伝って響いてくる。

音とは空気の振動だ。すぐにもっと物理的な力で、ドアが振動した。


ドアを開けると、懐かしい香りが脳いっぱいに広がった。

気立てがよさそうとか、キツめの顔立ちとか、優しそうとか、そういうコメントは、した瞬間に効果を失うような雰囲気を纏っていた。


恐ろしく美人だった。そして彼女は、それを自覚していた。

「楽しませなければいけない」と気負ったところが肉体や、声のトーンの乱れといったものに見られなかった。

自分がそこにいるだけで価値がある。それを彼女は誰よりも自覚していた。

力が抜け切っていた。


そうだ、この感じだ。

この秋葉原でしか味わえなかった距離感。

近いのに遠い。遠いのに近い。


求められることに慣れた人間の持っている空気。なんの躊躇いもなく、求められたものを開示する。

それは、距離感としたら近いのかもしれない。

しかし、漠然と「絶対に距離を詰める事はできないんだろうな」という気もしていた。

おそらく、自分への食いつきというものが一切ないからだと思っている。

物理の教科書に出てくる、“摩擦のない台車”のようなコミュニケーションだった。

知ろうとして近づくと、触れた力の分だけ遠ざかっていく。

それがもどかしくて、さらに強い力で走っていく。台車も加速する。

ああ、またか。そう思った。

この光景はもう、何度も見てきた。


しかしこの辛さにも近い関係性が、ひどく懐かしかった。

靴の中の小石が取れたときのような爽快感があった。

おそらく、自分はこの辛さをもう一度味わいたいと思っていたのだろう。


ふたりで1時間くらいベラベラと喋っていた。残り30分。


色々と話をしたが、あえて内容はここに書かないことにする。


かなり下世話なことも話していたので、もうエロ方面のムードは一切残っていなかった。


「今からこのムードで勃起できるの?」みたいなことを言われたと思う。

「できるね。断絶そのものに興奮すればいい。」と答えた。


「今から3分でいい、今までに出会ってきたいい男の話をしてくれ。そうすれば絶対に勃起できる。」と言って、彼女の話を聞く。


結局、交わらない。交われない。これが風俗の本質だと思う。

手を伸ばせば触れることができる距離にいるのに、肝心なところが交わる事はない。

自分にないものを持っている男のエピソードを聞きながら、自分と彼女の間にある溝を、ぼんやりと見つめていた。

彼女がうれしそうに男の話をし終えたとき、自分は勃起していた。


爆笑された。

「そんなおっきくないね」といわれた。自分はニヤニヤしていた。


「何かしたほうがいい?」と言われたが、「いや、何もしなくていいよ。そのままで。」と答えた。


オナニーした。自分でも驚くほど早かった。そういうことだった。


自分の人生に交わらないであろう美人が、時間を切り売りして自分の前に立っている。

そこに興奮していた。彼女は、断絶そのものをオカズにして味わう相手として最高だった。


楽しかった。何度も礼を言って別れた。また行こうと思った。




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ブログなので好き勝手書こうと思って好き勝手書いたらなんか危ない感じになってしまいましたが、わかってもらえますでしょうか・・・



すこしだけ普通の話をすると、全裸やトップレス、乳舐めといったオプションは全て5分単位、手コキは基本サービスではなくオプション扱い(1射で終わり)で、普通のオナクラとして見ると割高な部類に入ると思います。

“手コキ”とキャッチコピーに入っているのに手コキが別料金であることや、オプションが5分単位であることが明記されていないのは、商売として不誠実だと思います。


ここを風俗デビューの場にすると、おそらくあまりいい思い出にはならないのではないでしょうか。

「アキバにあるオタク向けのライト風俗」というよりは、風俗ジャンキーやマゾヒストが精神性を満たすために行くと、最高のパフォーマンスが出せるお店なのかと思いました。


しかし彼女にはオプションやシステムの不親切さを補って余りあるポテンシャルがあります。オナクラではまず出会えないタイプだと思います。

変にスレてしまって世の中をナメているわけでもなく、オナクラの女子大生のように素人感があるわけでもない。

自分が打ち込んだ分だけ自分を見せてくれるような、そんな子です。


読み返すとあんまり褒めてないような感じがしてきましたが、褒めています。



次回はパチンコの話と催眠術の話をしようと思います。



また!